おやのおもい

人は仲間の中で成長する

2005年卒業生保護者

上野景子

 今回は、横浜市にお住まいの上野景子さんです。
 2005年に卒業した息子さんが小学生の時に、ご主人とともに立ち上げた高機能自閉症理解促進グループ『のびのび会』会長として、発達障害といわれる方々の支援活動を現在も続けておられます。
 そんなお忙しいスケジュールの中、急な寄稿依頼に快く応じてくださいました。
 グーグルマップで北星余市を検索してみました。日本地図から北海道、そして余市へズームしていくにつれ、私の心はあの頃にスーっと引き戻されていきました。
 今から14年前、息子15歳の4月、そう、北星余市に送り出したあの頃に。
 息子は高機能自閉症、こだわりが強く、対人関係に障害を持つため、小学校時代はいじめの標的にされ、親子共々辛い日々を送りました。
 中学校時代は更に厳しく、中1の夏休み明けから不登校に。その後、卒業するまで、1日も登校することはありませんでした。
 中学3年の秋、卒業後のことを親子で話し合ったとき、私たち夫婦は真っ先に北星余市のことが頭に浮かびました。今から、20年以上前のこと、新聞に掲載された「北星余市高校、不登校生、中退者受け入れます」そんな記事がずっと頭に残っていました。
 親の気持ちとは裏腹に、息子は「ボクを北海道に捨てるのか!北斗星の個室に乗せてくれたら、見学に行ってやる」と啖呵を切る始末。それから間もなくして、私と息子は北星余市に足を運んでいました。
 教室の授業風景を見た私は、強いカルチャーショックを受け、私の選択は間違っていたのではないかと思い、一刻も早くこの場から立ち去ろうと考えていました。しかし、息子は久保田直子先生と面談するうちに、目がキラキラと輝いてきて、「来年、この学校に来ます」と宣言したのです。
 北星余市での3年間、息子はいろいろなことにチャレンジして、仲間と青春を謳歌していました。私たち親も本当に楽しませてもらいました。
 PTAの絆はとても強く、北星余市に対する思いは熱く、ときに対立することもありましたが、今考えるとかけがえのない日々でした。
 卒業して10年以上たった今でも、息子は北星余市の仲間と飲んだり、スキーに行ったりしています。先生方、下宿のおじさん、おばさん、仲間たちが団結して、卒業まで導いてくれた賜と感謝しています。
 親元を離れた3年間で息子は心も体もたくましく、そして、自分の気持ちをきちんと表現できる子に成長しました。
 今は社会人として働いていますが、仕事以外にもバドミントン、車、スキー、釣りの仲間と、幅広い交友関係に恵まれて楽しく過ごしています。人は仲間の中で成長するんです。
 息子の障害は治ることはありませんが、北星余市で随分と改善されました。先生方は障害に対する知識はなくとも、全力で一人一人の生徒に向き合って、日々生活しています。それこそが本当の教育だと思います。
 北星余市が永遠に存続することを願ってやみません。いつまでも卒業生が立ち寄れる母校であって欲しいです。私たち親にとっても。
 

2016年9月寄稿



☆著書紹介☆

発達障害なんのその、それが僕の生きる道

上野康一・上野景子・上野健一【著】

発行者/小野利和

東京シューレ出版

 2011年に初版が発行されたこの本で、上野景子さんは高機能自閉症の息子さんの24年間の歩みを丁寧に綴っています。

 北星余市高校在学中のエピソードも感動的。

 息子さん本人も自身のことを語り、ご主人の健一さんは発達障害についてわかりやすく解説するなど、ご家族3人の共著となっています。発達障害を理解するうえで、大きな助けとなってくれる一冊といえるでしょう。