おやのおもい

この学校は放っておけない

2004年卒業生保護者

佐々木正幸・裕子

 今回は、長年PTA東日本OB会の屋台骨を支えている佐々木正幸さんと裕子さんご夫妻です。いつも一緒のおしどり夫婦としても有名です。取材当日裕子さんが持参してくれたのは、北星余市に関連する書籍や、ドキュメンタリーなどを収録した多数のDVDディスクでした。
―これは貴重なコレクションですね。
「北星余市の歴史が感じられるでしょ?」
―北星余市を取り上げたテレビ番組って、こんなにあるんですね。
「昔、皆が観たいっていうのをリスト化してDVDにしてあげてたんですよ。あと、この北星の歴史を綴った『学校の挑戦』は思い出の本です。通勤電車の中で毎日のように読みながらひと目もはばからず泣いていました。北星余市を知ったのは2000年の4月に偶然観たドキュメンタリー番組でした。ここだ!この学校だ!と感じた瞬間涙が溢れました。

ただ本当に思う通りの学校なのか知りたいと思ってこの本を入手したんです。これを読んで、『あ、この学校は本物だ』って思えたんですよね。で、本の最後の方に『親も変われるPTA』って書いてあって。このPTAに憧れて入りたいと思ったんですよ。そのためにはまず子どもを入れなきゃいけない(笑)。努力しました。」
―努力ですか。
「地元の高校の入学式は本人と私で出席したんだけど、校門を入った瞬間に感じたんだよね。何とも言えないよどんだ空気を。校長の挨拶も、例えば『青春を謳歌しよう』『君たちには希望がある」とか、そんな前向きなイメージでなく『校則を守ってください』とか『こういう服装はだめです』とか、ネガティブなことばかり。息子もいい印象は持てなかったんでしょう。学校生活が始まったけど、何をやっても面白くないと言う。次第に生活が乱れ、仲間とつるんで夜遊びするようになった。」
「校則でバイク禁止なのに乗ったというので謹慎になった。家で課題なんかはこなしてたんですよ。で、最後に学校で謹慎部屋みたいな所に1日中居させられて。」
「先生たちが入れ替わり立ち代わり入ってきて、いろんな事を一方的に言っては出ていく。立ち直らせるというより、排除したいっていうのが見えたんでしょうね。自分から『辞める』となった。」
「辞めた後はバイクを乗り回してたんだけど、接触事故を起こして裁判所に行って、その審判で『君はこれからどうするつもりか』と聞かれた。とっさに北星余市の名前を本人が出したんです。そうしたら担当の人が『あの学校はいいですね』って。本人は、北星余市への進学を考えていると言えば好感度が上がると知って、半分くらいは心が傾いたんじゃないかな?」
「私と本人が北海道に見学にいった時はちょうど北星祭の準備や練習をしていた。だから9月の・・・」
「12日!」
―本当に合ってるんですか?
「山先生にアポ取って、12日に決まったんです。はっきりおぼえてます。」
「本人は渋々だったんだけど、学校に着いて玄関を入ったら下駄箱の向こうから歩いて来た女の子が『こんにちは!』って大きな声で言ってくれた。その瞬間、本人も何かを感じたんだよね。前の学校とは明らかに違う雰囲気を。」
―あぁ、なるほど!
「山先生に面接していただいて、本人は『俺、ここに住んじゃうかもしれない』って言うくらい気に入ったみたい。」
「でも、そこから入学試験まで半年もあったから、その間に本人の気持ちも揺れたんですよ。友達のお母さんから『あなたのお母さん、どうして北海道なんかに行かせるのかねぇ』みたいなことを言われたり、もうひやひや(笑)。『嫌な事があったらすぐ帰って来てもいいよ』って最後は送り出したんですけどね。入ったと思ったらすぐ連絡が来て『学校、超楽しい!』だって。」
―2年生からの編入だから、卒業までは2年ですね。
「3月末が試験だったから、最初にPTAに参加したのが4月に入ってからだったんですよ。そうするともう役員が決まっちゃってんの。PTAに憧れて入ったっていうのに、その貴重な2年間のうち1年目は役員になれなくて、ブラブラ遠くから見てるしかなかった。なんとか潜り込めないかなって思いながら(笑)。」
「2年目は広報になったんですよ。」
「私がね!。役員になったのは私なのに、なぜかついて来る。付き人で来てるにもかかわらず、結構意見を言うんですよ(笑)。」
―現役卒業後もお二人揃ってPTA活動は続けてこられた。お父さんは事務局を経てOB会長も務めましたね。様々な企画も実現させている。『OB先生を囲む会』と『水谷修先生講演会』という2大イベントを同じ年に開催されたのが印象的です。すごい元気!
「あの時は、現役の人たちもよく協力してくれたしね。」
「生徒数が減少し始めて、PTAやPTAOBの頭数も減ってきてたから、ここで踏ん張らなければっていう想いもありましたよね。」
「この学校に関わっていると、子どもたちはもちろんだけど、親の変化がとても興味深い。初対面では怖くて固い感じだったお父さんが、いつの間にかすごく人なつっこく柔らかくなったりする。この歳になっても人って変われるんだって感動します。親が変わるから子も変われるんだと思いますよ。」
「自分の子どもを見ていても、北星余市に入る前と後では明らかな変化がある。ありがとうっていう感謝の言葉を、本当に自然に言ってくれるようになりましたね。」
「私達親も自分では気付かない部分で子供に対しての気持ちが変化しているんだと思います。」
「子どもも親も、そういうふうに育ててくれる学校なんですよ、北星余市は。だから、この学校は放っておけないんです。」

2016年5月取材